みっちゃん

三洞の三洞らしき日々

 夏祭りが終わりました。
 いつも「やっと終わったか」と思う反面、いくばくかの寂寥感を感じます。

 ウチの自治会は会館を持っていないので、「立木表具店」の作業場が神酒所になります。
 立木の大将は「貞夫ちゃん」という、オレの9歳上の男。
 お互い、ベタな地元民だから、子供の頃から知ってます。

 昔は、貞夫ちゃんみたいな男が、どこの町内にもいたのでしょうね~。
 落語に出てくる「元気な与太郎」そのものみたいな人。
 いつも騒がしくて、喧嘩早いけど、実は小心者で涙もろい、お人好しで世話好きな男。

 祭りの時は、表具店の作業場だけでなく、立木家も公共スペースになっちゃう。
 訪ねて来た人から「立木さん、いらっしゃいますか?」なんて聞かれると、「あ、勝手に入ってイイよ。ビール出てるから飲んでね」なんて答えます。
 貞夫ちゃんの顔で、ウチの神輿を担ぎに来てくれる人が、何十人もいるのです。
 彼らは勝手に立木家で着替えをし、トイレを使い、ビールを飲んでいるのです。

 そんな中の1人に「みっちゃん」という女性がいます。
 本名は知りません。年齢は・・・私よりもちょっと上だとは思うけど、わかりません。
 少々頭の弱い・・・でも、にぎやかな場にいることが大好きなおばちゃんでした。

 みっちゃんは今年も、しっかりと祭り装束で来ていました。
 ただし・・・2日間、ずっと神酒所に座っていました。
 去年、大病をしたと言っていたのを思い出しました。
 体も一回り小さくなって、口数もめっきり減って・・・座っているだけでもつらそうでした。
 でも、2日間、ずっと座っていました。

 神輿なんか到底担げないし、神輿に付いて歩くこともできない。
 酒も飲んでいませんでした。飲めない体になっちゃったのでしょう。
 それでも祭り装束でずっと神酒所に座ってる・・・。
 そんなみっちゃんを見て、来年、この人ははたしてこの場に来れるのだろうか・・・と思ったら、切なくなってきてしまいました。

 みっちゃんは、神酒所の片付けをしている時になって、ようやく立ち上がりました。
 そして、洗ったお盆や皿に近づくと、布巾を取って、ゆっくりゆっくりと拭き始めました。

 最後の最後に、「祭りに参加できた」という感覚を味わうことができたのでしょう。
 とっても嬉しそうでした。