かけがえのない「幸福な時」

三洞の三洞らしき日々

 猫たちは外を見るのが好きだ。
 今日のような晴れた日には、私の後ろの窓辺に座って、一心に外を眺めている。

 私が立ち上がると「撫でてニャ〜」と訴える。
 撫でていたら、「あ、ネコちゃんだ」という声がした。
 白くてムクムクの防寒着を着た小さな男の子が、こっちを指差してお母さんに教えている。

 私が「ニャ〜って言え」と言ったら、猫はちゃんと、男の子に向かって「ニャ〜」と鳴いた。
 男の子も「ニャ〜」と叫んだ。
 もう一度「ニャ〜って言え」と言ったら……「もう飽きたよ」と逃げてしまった。

 残されたオレに、お母さんが会釈をしてくれた。
 そして2人で歩いて行った。

 男の子は、少しもじっとしていない。
 何かを見つけて道にかがみ込み、立ち上がったと思ったら走ってフェンスにしがみつき……明るい陽射しの中を、白いムクムクが自由に遊んでいる。

 「あいつは今、とっても幸せなんだろうな〜」と思った。
 同時に「お母さん、あなたも最高に幸せなんだよ」と思った。
 
 こういう時は、二度と帰って来ないのよ。
 愛しい息子が、世界で一番好きなお母さんに全身全霊を預け切って、安心して一心に遊べる時は、悲しいことに思いのほか短いものなのです。
 気付いた時には過ぎ去っているのです。


 そんなかけがえのない「時」を、愚劣な「活動」で無にするなんて……。
 とっても残念なことだと思います。
 後悔する前に「こっち側」に来てください。

 いつもそう思っています。