素直でお利口なトシ君は、生命保険セールスマンのお仕事をしようと思いました。
お友達のミキちゃんが、「わたしのパパは生命保険のセールスマンなのよ。だからいっぱいお金を稼いでるのよ」と言っていたからです。
トシ君は、生命保険セールスの会社に入りました。
でも、いっぱい稼ぐにはどうしたらよいかわからないので、みんなから「まね~じゃ~さん」と呼ばれているおじさんに聞いてみることにしました。
だって、まね~じゃ~さんは、いつもみんなに「たくさん売れ!」って命令していて、何でも知っているように思えたからです。
「まね~じゃ~さん、ボクは何をしたらイイですか?」
そうすると、まねーじゃーさんはこう言いました。
「まずは、たくさんの人と会いましょう!」
トシ君は、素直でお利口なので、ちょっと考えてから、また聞いてみました。
「どこに行ったら、たくさんの人と会えますか?」
まね~じゃ~さんは、なぜかちょっと困った顔をして、こう言いました。
「ビルの中にはたくさんの人がいるよ。それに、道にはたくさんの人が歩いているよ」
そこでトシ君は、大きなビルの中に入って行きました。
まね~じゃ~さんの言うとおり、ここならたくさんの人がいそうです。
でも、守衛のおじさんも、受付のお姉さんも、トシ君をビルの中に入れてくれません。
しかたがないので、トシ君は、道に出ました。
まね~じゃ~さんの言うとおり、道にはたくさんの人が歩いていました。
でも、誰もトシ君とお話をしてくれません。
みんな、いそいで歩いて行ってしまいます。
1日中歩き回って、トシ君はすっかり疲れてしまいました。
たくさんの人はいたけれども、1人も会えませんでした。
おうちに帰ってから、ちょっと泣きそうになりました。
でも、トシ君は我慢して、「また明日、まね~じゃ~さんに聞いてみよう」と思いました。
次の日、トシ君は、まね~じゃ~さんに聞きました。
「ビルの中にも、道にも、人はいっぱいいたけど、誰もボクと会ってくれませんでした。どうしたらたくさんの人と会えますか?」
すると、まね~じゃ~さんは、なぜかまた少し困った顔をしながら、こう言いました。
「電話をしたり、おうちを訪問してごらん。そうするとたくさんの人と会えるよ」
トシ君は、電話をすることにしました。
タウンページには、たくさんの電話番号が書いてありました。
でも、誰もトシ君とお話をしてくれません。
何も言わずに電話を切ってしまう人もたくさんいます。
そしてとうとう、こう言われてしまいました。
「知らない人のおうちに電話をするのは、迷惑なことなんだよ。たくさん迷惑をかけると、ケーサツにつかまってしまうよ」
トシ君は、パパとママが、「他人に迷惑をかけてはダメ」と言っていたのを思い出しました。
トシ君は素直でお利口ですから、「電話はもうやめよう」と思いました。
そして、おうちを訪問することにしました。
でも、誰もトシ君とお話をしてくれません。
ドアを開けてもくれません。
そしてとうとう、こう言われてしまいました。
「知らない人のおうちのピンポンを鳴らすのは、迷惑なことなんだよ。たくさん迷惑をかけると、ケーサツにつかまってしまうよ」
トシ君は、また、パパとママが、「他人に迷惑をかけてはダメ」と言っていたのを思い出しました。
トシ君は素直でお利口ですから、「訪問はもうやめよう」と思いました。
トシ君はすっかり疲れてしまいました。
1日中電話をして、訪問したけれども、誰もトシ君と会ってくれませんでした。
おうちに帰ってから、ちょっと泣きそうになりました。
でも、我慢して、考えました。
「どうして、何でも知ってるまね~じゃ~さんに聞いたのに、たくさんの人と会えないんだろう?」
その時、パパとママのことを思い出しました。
パパはこう言っていました。
「わからないことがあったら、ちゃんと聞くんだよ。わからないままでやっても、できないからね。この前買ってあげた飛行機のプラモデルと同じだよ。『作り方』の紙をよく見て作らないと、ちゃんとした飛行機はできないだろ? だから、わからないことがあったら、『なぜ?』って聞くんだ。そうすると大人はちゃんと教えてくれるからね」
そして、ちゃんと聞くと、ママはいつもやさしく教えてくれます。
この前、テレビが点かなくなっちゃった時、「なぜ?」って聞いたら、ママはちゃんと教えてくれました。
「トシ君、電池がなくなっちゃったから、リモコンが動かないの。だからテレビが点かないの。それじゃ困るでしょ? だから、このお金を持って、コンビニに行って、電池を買ってきてちょうだい。コンビ ニの人に、『タン3の電池が4本入ったやつをください』って言うのよ。そうすれば、リモコンは動いて、テレビを見られるようになるからね」
「よし、明日は、まね~じゃ~さんに聞いてみよう。パパに言われたように、ちゃんと『なぜ?』って聞いてみよう。そうしたらまね~じゃ~さんは、ママみたいにやさしく教えてくれるに違いない」
トシ君は嬉しくなって、ぐっすりと眠りました。
次の日、トシ君はまね~じゃ~さんに聞きました。
「まね~じゃ~さんは、『たくさんの人と会え』って、教えてくれました。でも、ビルの中にも、道にも、人はたくさんいたけれども、誰もボクと会ってくれませんでした。次の日は、いっぱい電話をして、いっぱいおうちを訪問したけれども、誰もボクと会ってくれませんでした。
まね~じゃ~さん、たくさんの人と会うには、どうしたらイイでしょう?」
すると、まね~じゃ~さんは、なぜかとっても困った顔になりました。
そして、こう言いました。
「でも、ケーヤクを取るには、たくさんの人と会わないとね」
トシ君は、パパの言葉を思い出して、聞きました。
「なぜ、ケーヤクを取るには、たくさんの人と会わなきゃいけないんですか?」
そうしたら、まね~じゃ~さんは、もっと困った顔になって、こう言いました。
「だって、たくさんの人と会わなかったら、ケーヤクは取れないからだよ」
トシ君は、パパの言葉を思い出して、聞きました。
「じゃあ、どうやったらたくさんの人と会えて、ケーヤクが取れるんですか? 飛行機のプラモデルを作る時の紙みたいに、教えて下さい」
そうしたら、まね~じゃ~さんは、もっともっと困った顔になりました。
そして、突然、怒り出しました。
「そんな紙はないよ! グダグダ言わないで、言われたとおりにやればイイんだよ!」
まね~じゃ~さんは、ママのようにやさしく、わかりやすく教えてはくれませんでした。
でも、トシ君は、「男の子は泣いちゃいけない」とパパが言っていたから、泣きそうになったのを我慢して、もう一回、聞きました。
「ボクは言われたとおりにやったけど、1人の人とも会えなかったし、ケ-ヤクも取れなかったから、教えてほしいだけなに・・・どうやったらたくさんの人と会えるんですか? どうしてたくさんの人と会わなきゃケーヤクが取れないんですか?」
まね~じゃ~さんは、顔をまっ赤にして、怒鳴りはじめました。
「ケーヤク取るには、たくさんの人と会わなきゃダメに決まってるだろ! だからたくさんの人と会わなきゃいけないんだよ! だからやればイイんだよ! どうやってとか、聞くんじゃないよ!」
トシ君は思い出しました。
パパもママも、こういうのは「ヘリクツ」だと言っていました。
ヘリクツを言う人は、ロクな人じゃないと言っていました。
素直でお利口なトシ君は、「ホントのこと」がわかりました。
「まね~じゃ~さんは、知らないんだ。知らないから、答えられないんだ。大人なのに答えられないから、それをごまかそうとして、怒ってるんだ」
素直でお利口なトシ君は、まね~じゃ~さんに言いました。
「バカ、死ね! わからないくせに、わかったようなこと言ってんじゃネ~よ! 迷惑なんだよ!」
そう言って、会社をやめました。
それを言ったら、パパもママも、とってもほめてくれました。